今年からMicrosoftはWindows 10へのアップグレードを「推奨される更新プログラム」に格上げしたため、強制アップグレードが始まったという記事を度々見るようになりました。
しかし、いろいろなニュースを見ていると何時までもWindows 10から逃げていると損し兼ねない状況になりつつあります。
そろそろWindows 10に対するスタンスを決めなければならない時期に来ています。
強制アップグレードが始まった?
先ごろ、このような記事がありました。
記事には、
4月6日、なにげなくGWXを開いてみると、「次の予定でアップグレードされます」との表示が。あれ、もしかしてこれ、OSが強制的に更新されちゃう?
自動でアップグレードが予約されていたのでうろたえてしまいましたが、キャンセルは可能でした。
とあり、如何にも強制アップグレードが始まったようにとれるのですが、他のニュースサイトを見てもこのような記事はありませんでした。
本当に自動で予約されるようになったなら、どのニュースサイトにも似たような記事が掲載されるはずです。
強制アップグレードに過敏に
これまでMicrosoftは利用者を欺くような手段でWindows 10へのアップグレードを行ってきました。
そこにきて、今年からWindows 10へのアップグレードを「推奨される更新プログラム」に格上げすると明言したことでWindows 10に拒否反応を抱いている人が過敏になっているように思えます。
2月始めに配信された更新プログラムにより、いよいよ強制アップグレードが始まったとのニュースも流れましたが、この件も違うようです。
実際にアップグレードされてしまった方も居られるので、すべてが間違いとは言えませんが、ニュース記事や自分の環境やテスト環境の状況を見ている限り、何かしらの手違いでWindows 10へのアップグレードを「予約」してしまったのではないかと思われます。
このような記事があります。
- Windows 10のアップグレードは強制になったわけではない ただし、Windows 7/8.1ユーザーは要注意(ITmedia)
- Windows10無償アップグレードは未来の自分への投資(PC Watch)
どちらの記事でもMicrosoftがアップグレードを強引に勧めるのはWindows 7などの古いWindowsのサポートを減らすためとの言い分です。
しかし、それは誤りだと私は考えます。
Microsoftは個人に対してサポートは行いません。唯一のサポートであるマイクロソフトコミュニティでもユーザー同士に解決させます。モデレーターも難しいことになるとMicrosoftの技術部門に問い合わせを行ってまで解決しようとはしません。結局、個人ユーザーはYahoo知恵袋などを利用することとなり、そこにはMicrosoftのコストは一切かかっていません。
Answer Deskサポートというものもありますが、有償のサポート契約を締結することで利用可能となるため普通は使わないでしょう。
- サポートサービス(Microsoft)
一方、最大の顧客である企業の使うWindows 7/8.1 EnterpriseはWindows 10への無償アップグレード対象ではありません。そのため強制アップグレードの対象とはならないのです。
これらの事実が古いWindowsのサポートを減らすために強引にアップグレードを行うというという目的と矛盾するのです。
Windows 10への無償アップグレードの経路は2通り
Windows 10へのアップグレードを行う経路は2通りあります。
一つ目はWindows Update
こちらはMicrosoftがコントロール可能で、Windows 10の正式リリース直後からWindows Updateのオプションに予めチェックを入れた状態で「Windows 10にアップグレード」という更新プログラムを配信していました。
このオプションは環境によって現れない場合もあるのですが、昨年の10月頃に対象パソコンを一気に増やしたためか騒ぎになったようです。Microsoftは「手違い」とのことで修正すると告知しましたが、11月にWindows 10 バージョン1511をリリース後も今年2月まで続けていました。
これは明確な騙し討ちであり、卑劣な方法のため、Windows 10に対する印象を更に悪いものにしました。
もう一つは、通知領域に表示される「Windows 10を入手する」からの予約
しつこく、画面の右下にバルーンで表示したり、画面の中央にウィンドウで表示したりします。それでもユーザーがアップグレードの予約をしない限り、勝手にWindows 10にアップグレードすることはありませんでした。(2016年5月12日以前の話です)
仕事などで急いでいる場合など、バルーンやウィンドウを消す手順を間違えて、うっかり予約してしまうこともあり得ます。
このアイコンはKB3035583という更新プログラムが表示していますが何度も更新されているので、更新プログラムを削除して非表示にしても、またインストールされ、アイコンが表示されることがあります。
KB3035583という更新プログラム名は知れ渡っているにも関わらず、Microsoftは律儀にKB番号を変えずに配信しています。
バルーンやウィンドウの表示は頻繁に使われているパソコンでは、あまり表示されないようです。一週間に数回しか使わないとか、電源を入れたままで殆ど操作しないようなパソコンで表示されるようです。そのため、うっかり予約してしまうと次に電源を入れた時にはアップグレード猶予期間を過ぎてしまい、いきなりアップグレードが始まることもあります。
これらの表示は正しく閉じれば予約されることはありません。しかし急いでいる場合など操作を間違えて予約してしまうこともあり得ますので注意が必要です。(2016年5月12日以前の話です)
最近の状況の変化
これらのWindows 10へのアップグレード施策ですが、3月末あたりから状況に変化が生じています。
まず、Windows Updateのオプションに紛れ込ませる方法はやらなくなりました。
苦情が多かったからとか、間違えた設定を修正したとか、そんなことではなく、騙してでもアップグレードさせる必要が無くなったからです。
一方、バルーンやウィンドウによる表示は相変わらず続けられています。
状況変化の理由
これはMicrosoftの戦略に関係することなので推測でしかありませんが、私は以下のように考えています。
当初、AppleやGoogleのスマートフォンやタブレットにパソコン市場を食われたMicrosoftは、AppleやGoogleから市場を奪還すべく、Nokiaを買収しWindows 10 Mobileに本腰を入れ、ユニバーサルWindowsプラットフォームアプリを増やすための実行環境としてWindows 10の普及を急いでいると考えていました。
それから半年、Windows 10の稼働台数は2.7億台まで増えましたが、ユニバーサルWindowsプラットフォームアプリは全く増えず、Windows 10 Mobileも騒いでいるのもメディアだけでMicrosoftには全く売る気がありません。Build 2016ではWindows 10 Mobileについての話題が全くと言っていいほど無かったのです。
このような記事もありますが「熱気」は売る側だけです。一般人にはiPhoneとAndroid以外は必要ないのです。TVでよくスマホゲームのCMをやっていますがWindows 10 Mobileに対応したものなど一つもありません。
理由は明確で、MicrosoftはAppleやGoogleと真っ向勝負など最初からするつもりはなかったのです。
Microsoftにとっての本当の意味での顧客は法人だけです。Microsoftが狙っていたのはWindowsなどの端末が生み出す目先の利益ではなく、もっと長期的に利益を生み出す企業のインフラとなる他社の入り込めない今後の戦略基盤となるAIコア技術だったということです。
Build 2016で告げたWindows 10の稼働台数2.7億台、この数字を見て「ならば安心して乗り換えよう」などと考える個人はいません。これは企業のトップをIT部門が説得するための数字なのです。この台数を短期間に達成した実績から、Windows 10、Windows Server 2016、Windows Azureの企業への導入を決定させることが目的だったのでしょう。Windows 10 Mobileはそれらの端末として企業での利用を前提として作られているので、現時点では売る必要のない商品なのです。
Windows Updateによる騙し討ちをやめたことから、目的は達成された、または、その見込みが立ったのでしょう。3億台あたりが目標台数なのではないでしょうか。
そしてBuild 2016で発表されたもう一つ重要な点、Bot戦略があります。
Windows 10 バージョン1511から使えるCortanaはパーソナルアシスタントとして使えば使うほど賢くなります。Build 2016で発表されたBotフレームワークはもっと汎用性があり、各分野に特化したBotを作れるものです。
これらから見えてくるのは、CortanaはBot戦略の先兵または広告塔であり、MicrosoftのBotフレームワークを使えばこんなものも簡単に作れますといいたいのでしょう。そしてCortanaにはもう一つの役目、Botフレームワークの更なる学習環境として今後利用されると考えられます。
Cortanaの実稼働台数はまだ少ないですがWindows 10さえ動いていれば強制的に有効化することも可能です。また、Windows 10 Insider Preview Build 14328ではCortanaを個人環境を設定しなくても使えるようにし、使うことへの抵抗を下げています。これは夏にリリースされるWindows 10 Anniversary Updateで一般ユーザーのWindows 10にも導入されます。
Botフレームワークに学習させるための3億台のCortana実行環境という数字は、他社のAI開発に対して大きなアドバンテージとなるでしょう。
今後の問題点
Windows 7/8/8.1環境の撲滅とか、ユニバーサルWindowsプラットフォームアプリの実行環境を増やすとか、こんなことが目的ならどうせ2016年7月29日のWindows 10無償アップグレード期限が過ぎても「好評につき延長」などと延長されると思っていました。
しかし、Microsoftが最初の目標を達成したとなると話は変わります。Microsoftは本気で2016年7月29日でWindows 10無償アップグレードを終了するつもりのようで、こんなサイトまで作っています。
- Windows 10 アップグレードガイド(Microsoft)
2016年7月29日で、しつこく迫るWindows 10へのアップグレードに悩まされなくなります。
こちらの記事には、
日本マイクロソフトの平野拓也社長は、、「約63%の人がWindows 10の無償アップグレードの終了時期を知らない。また、約31%のユーザーがWindows 10の価値をしっかりと理解できていないことが分かった。終了時期の告知の徹底と、Windows 10の機能を改めて訴求する活動に取り組む」とした。「今年末までには、国内におけるWindows 7のインストールベースを、Windows 10が超えるところまで持って行き、多くの人にWindows 10の素晴らしい体験をしてもらいたい」と明かした。
また、「7月29日で無償アップグレードが終了し、その後の延長はないという話を本社から聞いている。延長はない」と断言した。
とあります。Microsoftにおける日本マイクロソフトの地位の低下から100%信じることはできませんが、2016年7月29日までと思っておいた方がよいでしょう。
タスクトレイのWindowsアイコンは7月29日を過ぎると削除されるとのことです。
喜ばしいことである反面、Windows 7/8/8.1ユーザーは見捨てられることになります。
Windows 7/8/8.1ユーザーがすべきこと
Windows 10への無償アップグレードが嫌われる最大の原因は、ユーザーの希望を無視してMicrosoftの都合を押し付けられることでしょう。
それでもWindowsというプラットフォームを使い続けるなら、ここで決断すべきことがあります。
Windows 7/8/8.1を使い続けなければならない理由がある場合
業務用ソフトが対応していないなどの理由で、どうしてもWindows 7/8/8.1を使い続けなければならない場合は、第6世代Core iであるSkylakeを搭載したサポート対象のWindows 7/8/8.1対応パソコンへの買い替えを検討してください。
理由は、パソコンにはハード的な寿命があるため、今買っておかないと壊れた時に買おうとしてもWindows 7/8/8.1対応パソコンは中古でしか入手できなくなるからです。SkylakeがWindows 7/8/8.1の動作が保証される最後で最速のパソコンになります。
サポートライフサイクルは、まだ余裕があります。
しかし、Windows 7/8.1のサポートは第6世代Core iであるSkylakeより以前のCPUまでと告知されました。ただしリストに掲載されたSkylake搭載パソコンのみは2018年7月17日までサポートされます。
- Windows 7 と Windows 8.1 をサポートする Skylake 搭載システム(Microsoft)
- Skylake デバイス上の Windows 7 および Windows 8.1 に対するサポートポリシーの更新(Microsoft)
なお、間違ってもWindows 10搭載パソコンにWindows 7をインストールしようなどとは考えないでください。最近のパソコンはWindows 7に対応するように作られたもの以外にはWindows 7はインストールできません。試しにSurface Pro 4にインストールを試みましたが、インストーラー自体が立ち上がりませんでした。
Windows 10に移行してもよい場合
Windows 10に移行してもよい場合は、自身の都合に合わせてWindows 10プリインストールパソコンへの買い替えを検討してください。買い替えですので無償アップグレード期限は関係ありません。
現在使用中のWindows 7/8/8.1搭載パソコンから無償アップグレードすることも可能ですが、安定性がとても低くなりお勧めできません。正常稼働させるにはそれなりのパソコンスキルを必要とします。そして保証期間を過ぎた途端壊れる家電製品のように、最初は問題無いように見えて時間が経つにつれおかしくなり、戻そうと思う頃には31日という戻せる期限を過ぎています。
アップグレードを行うには、以下の要件が必要です。
- トラブルが発生した場合、自力で解決できる
- 自力で解決できなくても、検索で探し当て、理解し、対応できる
- 自分ではできないが、知人に協力を頼める
これらが無い場合は、有償サポートを頼ることとなり、何回も利用していると買い替えた方が割安なのです。
どうしても既存のパソコンを使いたい場合は、それなりのスキルを習得した上で、クリーンインストールしてください。
その場合でもできるだけ早い時期にインストール作業を行ってください。7月29日の期限間近になるとサーバーが混雑して期限までにライセンス認証を終わらせることができない可能性があります。
ボーナスでSkylakeパソコンに一新してWindows 7のライセンスでクリーンインストールしようなどと考えている方は部品の売り切れで組み立てが間に合わない可能性もあります。
Windows 7/8/8.1を使い続ける理由は無いが、Windows 10に移行したくない場合
ともかく何も変えたくない場合は、2016年7月29日まではWindows 10無償アップグレードに対抗する必要があります。
今後変わる可能性もありますが、Windows Updateによる強制アップグレードの危険性は無くなりました。
そのため、Windows Updateの設定を「更新プログラムを自動的にインストールする(推奨)」以外に設定している場合は「更新プログラムを自動的にインストールする(推奨)」に戻してください。
Windows 10への強制アップグレードを警戒することで重要なセキュリティパッチが適用されず、パソコンが危険な状態になるのは危険です。
根本的な対策をする場合は「企業ユーザー向け」の対策が有効ですが、現状ではそこまでやらなくとも大丈夫でしょう。
一方、「Windows 10を入手する」というバルーンやウィンドウにより、しつこく迫られる状況は変わりませんのでバルーンを非表示にする方法で回避してください。この方法は最近配布が始まったKB3095675による強制アップグレードにも有効と思われます。
まとめ
Microsoftは目的を達成し、次の段階に移行しつつあります。いつまでもWindows 10への移行に逆らうユーザーは見捨てられることになります。
だからと言って、急いで無償アップグレードを行ってもスキルの無い人は時間的にも金銭的にも大きな損失を被ることになります。
まずやるべきことは、Windows 10に対する自分のスタンスを決めることです。その上で各場合ごとのすべきことを実行するようにしてください。
2016年7月29日という期限が関係あるのは、Windows 10をクリーンインストールできるスキルを持つ人だけです。
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