ハイレゾの聴き分けに未練があり、もう少し良い環境にすれば聴き分けられるかもしれないと思い、バランス接続の入門機であるハイレゾウォークマンを購入しました。
しかし、ストリーミングに対応した新しいウォークマンは噂以上に深刻な問題を抱えていました。
左右完全独立型ヘッドフォンの寿命
およそ2年前に左右完全独立型ヘッドフォンを購入しました。当時はまだそれほど普及していませんでしたが、音響機器メーカーとして有名なBoseからSoundSport Free Wirelessが発売されました。
本体が非常に大きく装着していると目立つという問題があったのですが、独特なBoseサウンドには憧れがあり発売日の2017年11月23日に購入しました。
しかし、Bose SoundSport Free Wirelessは1回の充電で5時間聴けることは重要な選択要素でしたが、まさか2年で半分以下の時間まで電池が劣化するとは思っていませんでした。
ヨドバシの修理コーナーで見積もりを取ったところ、修理はできず全交換となるため1万8千円になるとのことでした。購入時は29,700円でしたが価格改定で26,400円、ヨドバシの2020年 夢のお年玉箱では15,000円で売られていた製品を、1万8千円で修理するのもバカらしいので修理せず処分することにしました。
音楽を聴く環境の見直し
どうせヘッドフォンを買い替えるならバランス接続のヘッドフォンにすることで、ハイレゾ楽曲と圧縮楽曲を聴き分けられるかもしれないと期待して、音楽を聴く環境も含めて見直すことにしました。
プレーヤーはウォークマンから選ぶことにしました。試聴できる環境はSonyのショールームか店舗しかないため、ヘッドフォンもSonyのMDR-1AM2にしました。カナル型ではありませんが、バランス接続対応で安いものはオーバーヘッド型しかないためです。
バランス接続の入門用ウォークマンとしては、旧モデルのNW-ZX300シリーズとストリーミング対応のNW-ZX500シリーズがあります。何度も試聴して聴き比べてみましたが、アニソンなどを聴く場合はNW-ZX500シリーズの方が音が良かったため、NW-ZX500シリーズを購入することにしました。ただし、噂通りバッテリーの問題がありました。
NW-ZX500シリーズとNW-ZX300シリーズ
ここで簡単にNW-ZX300シリーズとNW-ZX500シリーズについて説明しておきます。
バランス接続対応の入門用ウォークマンとしてはNW-ZXシリーズがあり、2019年11月にストリーミング対応のNW-ZX500シリーズが発売されました。店頭在庫だけとなりますが従来モデルのNW-ZX300シリーズもまだ入手可能です。
スペックとしての比較はこちらのリンクからSonyのサイトで確認できます。
NW-ZX500シリーズの大きな特徴としては以下となります。
- 良くなった点:
- ストリーミング対応のためにAndroid 9を搭載
- 無線LAN搭載でWi-Fi 5(IEEE 802.11 a/b/g/n/ac)まで対応
- 液晶解像度が800×480から1280×720に増加
- マイク、加速度センサー搭載(Android 9用)
- Bluetooth接続ヘッドフォン用コーデックにAACが追加
- 悪くなった点:
- ATRAC、ATRAC Advanced Losslessが再生できなくなった
- x-アプリ非対応
- Bluetooth接続ヘッドフォンアンプ機能の削除
- USB DAC機能の削除
- イコライザー可変範囲±20段階から±10段階の縮小
- トーンコントロール機能の削除
- 容量128GBモデルが無い
- バッテリー持続時間が25%から50%減少
気軽にどこでも音楽を聴けるというコンセプトで販売されてきたウォークマンですが、スマートフォンの普及により、その存在意義が危うくなっています。特に定額制音楽配信サービスは専用アプリやネットワークを必要とするため、ネットワークに接続できないウォークマンの出番はありませんでした。苦肉の策としてNW-ZX300シリーズに搭載されたのが「Bluetooth接続ヘッドホンアンプ機能」と「USB DAC」機能ですが、NW-ZX500シリーズではAndroid 9を搭載して定額音楽配信サービスに対応したため不要となり、削除されたということです。
PCからの転送はx-アプリ非対応でMusic Center for PCからの転送となります。Music Center for PCではCDをATRAC、ATRAC Advanced Losslessで変換することはできませんので、これらのコーデックへの対応は不要と判断されたようです。ライブラリーにATRAC、ATRAC Advanced Losslessで変換された楽曲がある場合は転送時にAACまたはFLACに変換されて転送されます。
そして一番大きな問題として、バッテリー持続時間の大幅な減少という問題があります。
NW-ZX500シリーズのAndroidとしてのスペック
バッテリー持続時間の問題の詳細を調べるにあたり、Android搭載機としてのスペックを確認しておいた方がよいでしょう。
以前からウォークマンは、搭載しているCPUの性能が不足しているという問題を抱えています。本体だけで音楽を聴いている場合は問題ないのですが、Bluetooth接続ヘッドフォンで聴いている時に、何十曲も前の曲に戻そうと操作すると動作がおかしくなり、勝手に再起動するようなことがあります。
これまではCPUの性能を調べる方法が無かったのですが、NW-ZX500シリーズではAndroid 9を搭載したおかげで、調べることができるようになりました。今回はSystem Info Droidを使って調べました。
- System Info Droid (Info, Tools and Benchmark)(Google Play)
これらの画面がSystem Info Droidで得られる情報です。
重要な項目を抜粋すると以下の様になります。
- Android:9
- Processor:lmx8
- Instruction Sets:arm64-v8a
- CPU Max Frequency:1800MHz
- CPU Cores:4
- Total System RAM:3.80GB
- Battery Capacity:1500mAh
ARM互換の4コア、RAM 4GBですので、今の一般的なAndroidスマートフォンより低いスペックのハード構成ですが、音楽を聴くだけなら十分と考えたのでしょう。そして搭載するAndroidは設計時点で最新のAndroid 9を搭載しています。
そこで本当にスペックが足りているのかを、Assistant for Androidというアプリで調べてみました。
- Assistant for Android(Google Play)
アプリを起動するとCPUとRAMの使用率が表示されるのですが、NW-ZX500シリーズでは他にアプリを起動していない状態でも、CPUの使用率が66%以下に下がりません。
Android 9を搭載したスマートフォンを持つ知人に確認してもらったところ、そのスマートフォンでも50%以下にはならないとのことでした。ちなみに私が使っているAndroid 7を搭載したタブレットでは、3%程度まで下がります。
Assistant for Androidが、Android 9で正確にCPUの使用率を表示しているのかという問題もあります。しかし、Android 9は安い機種でもNW-ZX500シリーズより強力なハードを搭載したスマートフォンで動作させることを前提としており、それを搭載したNW-ZX500シリーズは「音楽を聴く」という本来の目的以外に電力を食われている可能性があります。
そしてバッテリー容量が1500mAhと非常に少ないことも分かりました。
(2020/2/6 追記)
twitterで下記の記事では4800mAhと表示されているとの指摘がありました。
使用しているアプリのAntutu 3DBenchは、NW-ZX500シリーズでは対応していないため、現在はGoogle Playにも表示されません。
- Antutu 3DBench(Google Play)
- AnTuTu Benchmark(Google Play)
そのためこちらのサイトを利用します。
こちらのサイトのテキストボックスに上記のGoogle PlayのURLを入力して、「Generate Download Link」をクリックします。パッケージファイルをダウンロードするリンクが生成されますので、クリックしてダウンロードします。Antutu 3DBenchはAnTuTu Benchmarkを必要としますので、両方のパッケージファイルをダウンロードします。パソコンでダウンロードした場合は、NW-ZX500シリーズのDownloadフォルダーなどに転送してファイルアプリからインストールします。
実行結果ですが、現状ではAntutu 3DBenchでも1500mAhと表示されますので、バッテリー容量は1500mAhで間違いないようです。
充電にも深刻な問題が
NW-ZX300シリーズではなくNW-ZX500シリーズを選ぶにあたって、2つの心配事がありました。ひとつはAndroid 9を搭載しているためAndroid 9のサポートが終了しても、Sonyはバージョンアップぜずサポートを放棄するという問題です。以前に発売されたAndroid搭載ウォークマンも、1シリーズを除いてバージョンアップは行われませんでした。バージョンアップについては後述します。
もうひとつは噂になっているバッテリー持続時間の問題です。
バッテリーの問題の原因としてWi-Fiという通信機能が電力を食うということは、スマートフォンでもよく言われていたため、NW-ZX500シリーズでも同じことだろうと思っていました。しかし、実際にバッテリー残容量の変化を調べてみたところ、このような結果となりました。このグラフは初期状態からアプリを追加せず、音楽再生アプリなどアプリは何も起動していない状態で、スリープさせたものです。
Wi-Fiのオン/オフは、バッテリー残容量の変化に大きな違いは無く、インターネットに接続しているかどうかということが、大きな要因となっていることが分かります。Android 9を搭載したことで「音楽を聴く」という本来の目的以外で、大きな電力が食われていることが分かります。アプリにはバックグラウンドで動作するものもあるので、アプリを追加するとバッテリー残量の減りは顕著になります。
本体ソフトウェアVer.1.20.02で自動シャットダウン機能が搭載されましたが、根本的な解決にはなっていません。
もちろんインターネットに接続せず、従来のウォークマンと同様に音楽を聴くことは可能です。しかし、定額音楽配信に対応してストリーミングで音楽を聴けるというメリットを活かすには、インターネットに接続する必要があります。ウォークマンに楽曲を保存してからインターネットとの接続を切って、保存した楽曲を聴くという方法もありますので、インターネットに接続する場合はバッテリーを食われるということは、覚えておくべきでしょう。
更にもうひとつの問題も発覚しました。
この充電器は国内では売り切れでAliExpressから購入したものです。前面には各USBポートの電圧と電流が表示されているのですが、液晶のバックライトが明るすぎるためか、振動を加えるかUSBポートに接続した機器が充電を始めると点灯し、状態が変化しないと60秒で消える仕様となっています。
NW-ZX500シリーズを接続して充電していたのですが、100%となり充電が終了してNW-ZX500シリーズの充電ランプが消えると、充電器のバックライトが点灯したままになることに気付きました。NW-ZX500シリーズを接続したポートの表示をよく見てみると、数十秒間隔で充電を始めたり止めたりしていることが分かりました。この状況は、NW-ZX500シリーズをインターネットに接続していない状態でも起こります。
スマートフォンやタブレットをつないで確認しましたが、100%になった後、60秒以内に充電を始めるようなことはありませんでした。
推測ですが、Assistant for Androidで表示されるCPU使用率が66%を下回らないことや、搭載バッテリー容量が1500mAhと非常に小さいことから、搭載バッテリー容量がAndroid 9を動作させるには少なすぎるため、再充電が必要な容量まで60秒以内に減少して、再充電を始める状況を作り出していると思われます。
短期間での充電と放電の繰り返しは、バッテリーにダメージを与えかねない状況です。
対策としては、充電時はWi-Fiをオフにしてインターネットとの接続を切り、数時間したら充電器の電源をタイマーで切るような対策が必要でしょう。タイマーの付いた充電ケーブルも販売されてます。充電が完了したことを流れる電流で判断してオフにするケーブルもありますが、上記のように再充電を繰り返していますのでオフにならない可能性があります。こちらの「ミヨシ STI-C10/WH」は、実際に使ってみてタイマーでオフにできることを確認しています。
本体ソフトウェア1.20.02の自動シャットダウン機能も、電力供給されたUSB Type-Cケーブルが接続されていると動作しません。HuaweiのMediaPadはシャットダウンした状態でも充電ができるのですが、NW-ZX500シリーズは、外部から電力が供給されているとAndroidが起動してしまいます。
NW-ZX500シリーズの充電には十分注意してください。
Androidのバージョンアップについて
AndroidとiOS(iPhoneなど)の関係は、WindowsとmacOS(Mac Bookなど)の関係に似ています。
macOSを搭載したパソコンはAppleが販売するMacシリーズだけです。一方、Windowsを搭載するパソコンは、いろいろなメーカーから販売されています。各メーカーは他社との差別化を図るために、Windowsに独自の機能を搭載しています。
同じようにiOSを搭載したモバイル機器はAppleが販売するiPhoneとiPadだけです。一方、Androidを搭載したモバイル機器はいろいろなメーカーから販売されています。各メーカーは他社との差別化のためにAndroidに独自の機能を搭載しています。
NW-ZX500シリーズにも、W.ミュージックや高音質ガイドなどのウォークマン専用アプリやサンプル楽曲が予めインストールされています。これらの独自機能は開発段階でAndroid 9での動作確認が行われているため、ソニーとしてもサポートが行えます。
しかし、開発完了後にリリースされたAndroid 10では、動作確認が行われていないためソニーとしても保証ができません。Android 10での動作確認を行うには膨大な労働力、すなわち莫大な費用がかかるので簡単にはバージョンアップはできません。
少し前までメーカーはAndroidのバージョンアップを無視していましたが、最近は1バージョンだけは保証するようになってきています。保証するためにかかる費用は、製品価格に上乗せされます。
こちらに記事ではXperia XZ3について4年間のアップデートを保証しているとありますが、スマホのように販売台数が多いと上乗せされていることに気付かないでしょう。
- Xperia XZ3は4年間のOSアップデート保証、”Android T”までサポートか(スマホ評価・不具合ニュース)
Googleが3年間のバージョンアップ保証をしているという話もありますが、Androidは各メーカーが独自機能を搭載しているので、Googleが保証することは不可能なのです。Xperia XZ3の4年保証はSonyが独自に行った特例です。
NW-ZX500シリーズの話に戻すと、NW-ZX500シリーズは、NW-ZX300シリーズより2万円ほど高い価格設定になっています。この2万円は、ただAndroidを搭載しただけにしては高過ぎます。部品も良くはなっていますが、NW-ZX300シリーズの発売時期から時間が経っており、良い部品も価格は下がっているはずなので価格には影響しないでしょう。
したがって、2万円にAndroid 10へのバージョンアップ費用も含まれている可能性はあります。
まとめ
左右完全独立型ヘッドフォンからNW-ZX500シリーズとバランス接続のオーバーヘッド型ヘッドフォンに移行したことには満足しています。
しかし、NW-ZX500シリーズに搭載されたバッテリー容量は、1500mAhとAndroid 9を動作させるにはあまりにも少なすぎることや、数十秒間隔で再充電を繰り返す状況は問題です。Sonyの開発陣には、もう少しAndroidを勉強してから開発してもらいたかったです。
結局、バランス接続にしてハイレゾは聴き分けられたのかといえば分かりませんでした。試聴したときと音も違うのでエージングが足りないのかもしれません。
コメント
IEEE 802.11 a/b/g/n/acに対応とのことですが、どれで接続してもバッテリーの減り方の傾向は変わらないでしょうか。
コメントを頂きありがとうございます。
IEEE 802.11 a/b/g/n/acに対応していますが、宅内では5GHzのIEEE 802.11 acまたは2.4GHzのIEEE 802.11 n、屋外では2.4GHzのIEEE 802.11 nとなるでしょう。
実験では帰宅後に充電して、朝まで充電せずに置いておいた場合を想定して5GHzのIEEE 802.11 acで測定しました。
2.4GHzのIEEE 802.11 nに変更してみましたが、グラフの傾きはほとんど同じです。