総務省から2年縛りを中途解約した場合の違約金を1000円までとすることが妥当との提案が波紋を呼んでいます。
これは定期契約の有無での差額1500円を170円にすることも含まれており、これまで定期契約を拒否されてきた「ハーティ割引」が実質200円しか割り引かれていない実態が露見するきっかけになるかもしれません。
違約金を1000円に
2019年6月11日に行われた有識者会合「モバイル市場の競争環境に関する研究会」で総務省から違約金は1000円までとの提案がされたそうです。
- 「違約金は1000円、端末割引は2万円まで」――完全分離プランの総務省案(ケータイWatch)
現在、携帯電話の契約は殆どが2年契約で契約期間中の定められた2か月以外で解約した場合、「違約金」という名目で9500円(税抜き)が徴収されます。
この「違約金」が「2年拘束」という悪商慣習の要となっており、利用者の流動性を阻害するものとして以前から問題視されていました。
そもそも携帯電話の契約に2年拘束などというものは無かったのですが、ソフトバンクが日本でiPhoneを販売するにあたって持ち込んだ悪商慣習です。
当時の携帯電話に比べて非常に高価なiPhoneを安く見せかける、今でいう実質価格を下げるための手段だったわけです。
扱っていたのもソフトバンクだけだったこともあり傲慢になっていたようで、私が契約した時も「非常に高価なiPhoneをあなたに売ってあげているのだから感謝するように」と真顔でソフトバンク店員に言われとことを今でも覚えています。
今回の会合では「2年拘束」は否定されていませんが、「違約金」は1000円以下が妥当との提案が総務省からあったそうです。理由は「1000円なら他社に乗り換える」とのアンケート結果が8割だったからとのことです。
総務省は利用者の流動性を高めて自由競争を促進するのが目的ですから、当然の提案なわけです。
端末1台18万円
昨年のiPhone Xs発売以降、おかしなことが起きています。機種変更をしようと契約に行くと、契約を拒否されるというものです。理由は端末の価格が高騰し過ぎて債務の審査に通らないためです。
昨年発売のiPhone Xsは64GBモデルでも12,1824円(税込み)、iPhone Xs Maxに至っては512GBモデルで177,984円(税込み)にもなります。分割払いで購入する場合10万円を超えると審査が厳しくなるためとのことです。
iPhone Xs Max 256GBは原価5万円で売価141,800円(税抜き)ですから利益率64.74%にもなり、とんでもない話です。
通信料金と端末代金を分離することを義務付けたことにより、実質価格などというものは無くなり定価が露になることで端末メーカーが過剰な利益を上乗せし難くなるでしょう。
- 菅官房長官、「これからは端末でも競争が働く」(ケータイWatch)
反論も
このように、利用者にとって良い方向に動いているわけです。
完全分離プランに移行することで最初は端末価格も上がりますが、端末メーカーは端末単体で勝負しなければならなくなることで、次第に下げざるを得なくなることが予想されます。
ところが、このような動きに対して否を唱える人もいます。
- 違約金「1000円」案に見る総務省の議論の危うさ(ケータイWatch)
こちらの記事は何かいつもと違い、感情だけで書き殴ったようで論理展開が破綻しているように感じます。
要点を抜粋すると、
- 自分自身のビジネスとして考えるべき
- 完全分離プランが出そろったところで違約金1000円などが突然出てきたらプランの再検討が必要になり、利用者もプランの再契約が必要になる
- 安いに越したことは無いのでアンケート結果をもとにするのは間違い
- 会合にキャリアを出席させない密会での方針
- キャリアの株主総会の直前に会合を開催
- 商慣習として「縛り」はどこでもやっている
- 民間業に国が口出しをすべきではない
などです。
まず、利用者が望むサービスを適正な価格で提供できなければ破綻するのは自由経済の摂理ですから、利用者がキャリアの懐具合など考える必要はありません。
現在利用者がプランで悩むのは、端末価格との兼ね合い、違約金、MNP料金、キャッシュバックなどで、実質的な支払額が複雑になっていることが原因です。どんなにプランが変わろうと、支払う金額が単なる足し算で成立するようになれば安いところを選ぶだけなので、何度も契約し直すにしても負担とはなりません。
定期契約はサブスクリプションとして一般的になりました。そしてサブスクリプションはすべて一括払いです。「縛り」として「違約金」を徴収するサブスクリプションなどありません。分割払いを許して残債を免除するから「違約金」などというものが発生するのです。
株主総会の前に会合を開催したのも狙ってのものでしょう。株主に問われることで単なる総務省からの提案以上の強制力が働きます。
民間業に口出しをしなかった結果が今の状態なのです。これ以上悪化させてどうするつもりなのか。
完全分離プランが実現され、更に2年拘束、違約金などが廃止されるとあたかも筆者が不利益を被るように思えてしまいます。強硬に反対するのも大手キャリアから何かしら支援を受けているのかと邪推してしまいます。
完全分離を急ぐ理由
何故、総務省は完全分離プランや拘束期間、違約金について改革を急いでいるのか。
推測ですが楽天モバイルが影響していると思われます。
携帯業界に変革をもたらしたソフトバンクもイー・アクセスなど中小携帯会社を吸収して、docomo、AUとともに3社カルテルを形成してしまいました。どんなプランが提示されても何故か横並びになってしまう状況が談合を行っている証しです。
MVNOで通信料金を下げてきたにもかかわらず、ここに楽天モバイルが加わって4社カルテルを形成されてしまっては、今までの施策が無意味となってしまいます。
楽天モバイルを牽制するためにも、今やらなくてはならないのでしょう。
今、MVNOで楽天モバイルと契約している人は、10月になれば自動的に第4の大手キャリアとなる楽天モバイルに移行できると思っているかもしれませんが、そう簡単ではありません。
総務省はSIMロックは認めていますので、楽天モバイルも当然SIMロックをかけてきます。
今使っている端末がdocomoかAUのSIMロックがかかっていて、SIMロックが解除できなければ端末の買い替えが必要になります。
そこで発生する端末代金には、通信料金と組み合わせた割り引きや、キャッシュバックなどを行えなくする必要があるのです。
ハーティ割引の欺瞞
「ハーティ割引」とは障碍者が特定の手続きをすることで、月額1700円の割り引きを受けることができるというdocomoのサービスです。
ところが「ハーティ割引」の手続きをすると定期契約ができなくなります。
docomoの契約では定期契約の有無で月額1500円の差があるため、定期契約できないことによる1500円の増額と「ハーティ割引」による1700円の割り引きで、実質200円しか割り引かれていないことになります。
このことを記事にしたところ障碍者をバカにしたコメントがあったため削除しました。誰も好き好んで障碍者になったわけではありません。
docomoの行いも大差ありません。「ハーティ割引」を使うなら定期契約を行えないように差別しているわけですから。その結果200円しか安くならないなら1700円の割り引きなどと記載すべきではありません。
今回の総務省の提案には違約金1000円に加えて、定期契約の有無の差額を170円とすることも提案されています。
根拠は定期契約有りでの違約金9500円と定期契約無しでの1500円の差額の累計とを比較すると、6か月で定期契約有りの方が安くなる(9500÷1500≒6.3)ため、1000円を6か月で割って170円を算出した(1000÷6=167≒170)とのことです。
そのまま計算すると「ハーティ割引」の実質割り引き額は1530円になりますが、当然docomoはそんなに割り引くつもりはありませんから「ハーティ割引」を370円としなければならなくなります。
そうなると今までの1700円という割引額は何だったのかとボロが出るわけです。
まとめ
一連の通信料金と端末代金の完全分離についての施策は、一時的には端末代金が上がったように見えますが、その事実は過剰に利益をむさぼる端末メーカーへの値下げ圧力となります。
長期的には通信料金も端末代金も下がるという、利用者にとって好ましい施策なのです。
にもかかわらず異を唱える者は自らが不利益を被るからなのかもしれません。同調する前に主張は正しいのか根底にあるものを見極めるようにしてください。
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